なぜヴォースなの??

 地球の温暖化の原因が産業革命以降の人間活動によるCO2などの温室効果ガスの排出にあるということはほぼ間違いない事実として認められています。過去42万年分の南極の氷を掘り出して、氷の中に閉じ込められていた大気中のCO2濃度を計測した結果、CO2濃度は約180〜290ppmの間で変動を繰り返し、その変動の周期が地球の氷期と間氷期のサイクルとぴったり一致すること、また、産業革命以後現在までの短期間に地球大気のCO2濃度が280ppmから355ppm(1980年代)に増加したことがわかりました。このような科学的な検証ができるようになったのはごく最近のことですが、実は1896年に、スウェーデンの科学者のアレニウス(Svante A. Arrhenius)という人が、CO2による赤外線吸収の計算から、大気中のCO2濃度が倍になれば地表面の温度が5〜6度上昇すると指摘していたのです。しかし、1950年ころまでは、人間活動により大気中に放出されたCO2はほとんどが最終的には海洋に吸収されると考えられていました。海洋は大気中の50倍以上のCO2を含んでおり、19世紀以降に人為的に放出されたCO2の見積もり量から、もしCO2が海洋に吸収されていないとすれば、大気中の濃度は現在よりはるかに高い値となるはずだからです。

 ところが、1956年になって、樹木年輪中の炭素同位体比14C/12C の変動を解析したところ、海洋は吸収したと思われていたCO2の増加分の約40〜50%しか吸収していないことが明らかになりました。海洋に吸収されなかった残りのCO2はいったいどこに行ったのでしょうか? この問題を考える過程で、地球は複雑な相互作用をもつ要素から成り立っていること、海洋が地球規模の気候変動に重要な役割を果たしていること、しかし、海洋で起こっていることについて知らないことがたくさんあること、などが分かってきました。地球規模の海洋のプロセスを理解することが急務であり、そのための研究には地球規模の観測が重要であるという認識が高まり、現在では、多くの国際的な研究が推進されています。そして、衛星、ブイ、調査船などあらゆる手段を駆使して、海洋に表れる地球環境変動の様子を追跡、予測する作業が行われています。

 海洋で起こる複雑な変動の仕組みを理解するためには、広い範囲を長期的に観測して海洋の現状とその変動の状況を観察する必要があります。民間の船舶を利用して観測できる対象は、一定航路上の表層の現象を捉えることに限られますが、長期にわたって同一海域で反復して高密度な観測を行うことが可能です。また、VOSによる観測は、あまりお金をかけずに、調査船などではカバーしにくい海域を観測することも可能です。人間の生活基盤が存在しない海洋での観測を継続させることは、陸上に比べてはるかに困難なのです。そこで、定時性や最適航路の維持などを常に最優先する民間船舶はいろいろな自動観測をするプラットフォームとしても適しているのです。